景仰
甲藤善彦
その昔、彗星が現われると人々は不吉なことが起こると恐れおののいた。巨星彗星ヘール・ポップが4千2百年ぶりで近づいた年の弥生に、日本聖公会の至宝は天に召された。

1日に八代主教を訪れた時に公邸のベッドから耳を近づけなければ聞きとれない小さなかすれ声で「誰とでも本当に仲良くして、共に痛みを分かち合えるかどうかだな」と、笑顔で21世紀の教会について語られた。『サンケイ』夕刊に連載されている『語る』の原稿も、すでに奥様の口述筆記を頼んでいたわけだが、私が問いに即答できないでいると「じゃあ、6か月待つよ」と許してくださった。
肉体的苦痛を訴えずに、内助の功と神に全てを委ねた八代主教は、決して悪人を罵らなかった。
「教育には、放任に陥らない自由と、人間の自主性・主体性を否定しない規律が不可欠だ」という恩師サロモン教授の言葉と、「愛の反対語は憎しみではない、無関心である」というウィリアム・テンプル大主教の言葉を『語る』に残された。
燃える太陽ではなく、うさぎがその包容力に和んでおモチがつける十五夜の月、闇夜を照らす月光のような存在であった。月は太陽の恵みを受けつつ等距離を保ちながらこの世を照らし続け、太陽とこの世の和解の証として皆既日食のコロナ、聖霊の存在を明示した。
「痛みを伴う、具体的な形での『かかわり』だけが、生きる勇気を与えてくれる」、「救いというのは、不幸を生み出す人間社会の不平等(差別)、不自由、貧困、病気、苦しみ、死などからの解放だといえる」 常に聞く人の身になって、易しく『語る』八代主教の実存からは、神学博士の肩書が感じられない。(聖公会新聞 1997・3・25)
写真はいつもの笑顔
甲藤善彦
その昔、彗星が現われると人々は不吉なことが起こると恐れおののいた。巨星彗星ヘール・ポップが4千2百年ぶりで近づいた年の弥生に、日本聖公会の至宝は天に召された。

1日に八代主教を訪れた時に公邸のベッドから耳を近づけなければ聞きとれない小さなかすれ声で「誰とでも本当に仲良くして、共に痛みを分かち合えるかどうかだな」と、笑顔で21世紀の教会について語られた。『サンケイ』夕刊に連載されている『語る』の原稿も、すでに奥様の口述筆記を頼んでいたわけだが、私が問いに即答できないでいると「じゃあ、6か月待つよ」と許してくださった。
肉体的苦痛を訴えずに、内助の功と神に全てを委ねた八代主教は、決して悪人を罵らなかった。
「教育には、放任に陥らない自由と、人間の自主性・主体性を否定しない規律が不可欠だ」という恩師サロモン教授の言葉と、「愛の反対語は憎しみではない、無関心である」というウィリアム・テンプル大主教の言葉を『語る』に残された。
燃える太陽ではなく、うさぎがその包容力に和んでおモチがつける十五夜の月、闇夜を照らす月光のような存在であった。月は太陽の恵みを受けつつ等距離を保ちながらこの世を照らし続け、太陽とこの世の和解の証として皆既日食のコロナ、聖霊の存在を明示した。
「痛みを伴う、具体的な形での『かかわり』だけが、生きる勇気を与えてくれる」、「救いというのは、不幸を生み出す人間社会の不平等(差別)、不自由、貧困、病気、苦しみ、死などからの解放だといえる」 常に聞く人の身になって、易しく『語る』八代主教の実存からは、神学博士の肩書が感じられない。(聖公会新聞 1997・3・25)
写真はいつもの笑顔