運命の出会い 3
崇はシカゴで免許証を手に入れ、例の車で戻るとすぐにデニソンに訪ねてきた。私が春休み中、イリノイ州、ノックス・カッレッジに月井さんを訪ねることになっていたので、ついでにシカゴ行きも勧めるためもあった。
しばらく話をした後、｢洋ちゃんが好きになっちゃった｣と切り出した。まだ2回しか会っていない、しかも最初はダブルデート、ろくに話もしていない。だが、彼は真剣で、｢夏には親父が会議でアメリカに来ることになっているから会ってもらいたい｣と言う。私はびっくりしたというか、困ったというか・・・奨学生としてこれから勉強に集中し、卒業することが第一の目的で、その先のことは考えてもいなかったから・・・何と答えてよいかわからず、「そんなことは決められない。とにかく話が急過ぎる」と言い続けた。二人の会話の内容は次の手紙で想像していただくほかない。
洋ちゃん
無事に着いたことと思います。木曜日は折角楽しく過ごした後で、突然変な（？）話を切り出して、感情を害したんではないかと心配しています。
もう一度あの話をこの手紙で繰り返すつもりではないんですが、口では言えなかったこともあるので迷惑かも知れないが許して下さい。
木曜日には完全に洋ちゃんに言い負かされてしまった。変な意味にとってはいけないよ。と言うのは、洋ちゃんは僕と同じ感情をもっていないんだから、理路整然と話すことができる、が僕には出来ない。「好きである」と言う感情を抱いている以上どうしても理性的にはなり得ないのではないかと思う。また感情的であるのが、当然ではないかと思う。もし洋ちゃんが誰かを好きになった時、あなたの考えていることを理論づける（感情を抜きにして）ことができるだろうか？あなたが理性的に話をする以上、感情的に話をする僕が言い負かされるのは当然だと思う。だから僕がこの間言ったことを理論づけたり、弁解したりしようとは思わない。したって無駄だから。従って「知らずに好きになれるか？」と言われても答えられない。「特殊な環境が影響したんではないか」と聞かれても、何とも言えません。何故って? 僕が感情的で、あなたが理性的である以上、何とこじつけても詭弁にしか過ぎないから。
しかし僕は感情的であることを悔いはしません。僕は自分の「特殊な」感情を他人の恋愛論なぞを引っ張り出して分析するような冷静な人間であるよりも、むしろ感情的である方がいいと思う。「どうして好きになったか」と聞かれても同様の理由で答えることができない。好きになるということは相手に価値を見出さない以上、起こり得ないことでしょう。しかし洋ちゃんのことはあなた自身の方がずっとよく知ってるのだから、僕があなたの中に見出した価値はあなた自身が認める価値とは違うかもしれない。その価値観の相違（仮にあるとして）は、お互いの立場が違う以上あなたの了解を得られるとは思わない。
全てのことは同様にただ堂々巡りをするだけです。結論（僕だけの）はただ一つ「洋ちゃんを好きになった」という事実が現に存するということ。
次に言いたい事は、この事実はたんなる気まぐれで起こったのではないということ。理由を聞かれても答えられません。ただ、信じてもらうよりしようがないでしょう。木曜日帰って来てからこの手紙を書くまでまた考えてみました。考えて帰するところは結局同じこと、即ち「本当に好きになってしまった」ということだった。そしてこの気持ちは変わらないと信じています。理論的な何等の保障も与えられないことは残念ですが。
第三にはこういう気持ちを持つ以上、あなたとの交際は今後「好きな人」としてするつもりです。迷惑かもしれないけれど。勿論これはこちらだけのことで、木曜日に約束したようにあなたは僕をあなたの男の友達の一人として、普通に交際して欲しい。又そうしたからと言って、変な罪の意識なんか抱かぬよう、ごく普通に平常のままの気持ちで付き合ってもらえたら幸いです。
月井さんと相談してシカゴに行くにしても行かぬにしても、決まり次第「西山」さん宛てにハガキ位でなるべく早く知らせて上げて下さい。シカゴの人達は多分来るだろうと待ってるでしょうからなるべく行けたら行って欲しいと思う。
今日は午後フラタニティ対抗の陸上競技の試合、一哩走ったらブッタオレそうになった。夜は同じくヴァレーボールの試合。これ又我がフラタニティーは全然駄目。皆よく勉強する者ばかりで、駄目です。ただ一つあるトロフィーは僕とあと二人の友達が、玉突きで優勝してとったものと言う情けなさ。この間は水泳の対抗試合、その前はバスケットボールとタッチフットボール、バドミントン、ピンポン、ETC. 僕の様に不勉強家はせめてスポーツでフラタニティーのために尽くすより手がなさそうです。もうすぐソフトボールの対抗試合を始めますが、中学時代野球選手だったので昔取ったキネヅカと言う奴を発揮するつもり。
ともかく休みを面白く過ごして下さい。念のためにここの電話番号を教えます。GAMBIER 3691 South Hanna(Archon)
じゃ又、元気で。 崇 4月9日
P.S. シカゴの人達には洋ちゃんを僕の好きな人と紹介してしまったから、彼等はそういうつもりで応対してくれるかもしれない。あなたの承諾なしで済まないと思いますが、何しろシカゴに僕が行く前に、好きになったんだから悪く思わないで。「ただの友達として付き合っている」とはっきり言ってやってくれても結構です。
写真：上の写真最初の3点は渡米後初めて車を手に入れて喜んでいる様子。ケニヨンのキャンパスで。
4点目はシカゴで知り合った日本の留学生の友人と。この年の前年の夏、シカゴで。
5点目はデニソンの大学町グランヴィルの街角で。前月掲載した写真で洋子が立っていた場所と同じ。
この手紙は私がすぐノックスに出かけたので、月井さん気付けｃ/oで届いた。それで、念のため自分の電話番号を書いている。
崇はシカゴで免許証を手に入れ、例の車で戻るとすぐにデニソンに訪ねてきた。私が春休み中、イリノイ州、ノックス・カッレッジに月井さんを訪ねることになっていたので、ついでにシカゴ行きも勧めるためもあった。しばらく話をした後、｢洋ちゃんが好きになっちゃった｣と切り出した。まだ2回しか会っていない、しかも最初はダブルデート、ろくに話もしていない。だが、彼は真剣で、｢夏には親父が会議でアメリカに来ることになっているから会ってもらいたい｣と言う。私はびっくりしたというか、困ったというか・・・奨学生としてこれから勉強に集中し、卒業することが第一の目的で、その先のことは考えてもいなかったから・・・何と答えてよいかわからず、「そんなことは決められない。とにかく話が急過ぎる」と言い続けた。二人の会話の内容は次の手紙で想像していただくほかない。
洋ちゃん
無事に着いたことと思います。木曜日は折角楽しく過ごした後で、突然変な（？）話を切り出して、感情を害したんではないかと心配しています。
もう一度あの話をこの手紙で繰り返すつもりではないんですが、口では言えなかったこともあるので迷惑かも知れないが許して下さい。
木曜日には完全に洋ちゃんに言い負かされてしまった。変な意味にとってはいけないよ。と言うのは、洋ちゃんは僕と同じ感情をもっていないんだから、理路整然と話すことができる、が僕には出来ない。「好きである」と言う感情を抱いている以上どうしても理性的にはなり得ないのではないかと思う。また感情的であるのが、当然ではないかと思う。もし洋ちゃんが誰かを好きになった時、あなたの考えていることを理論づける（感情を抜きにして）ことができるだろうか？あなたが理性的に話をする以上、感情的に話をする僕が言い負かされるのは当然だと思う。だから僕がこの間言ったことを理論づけたり、弁解したりしようとは思わない。したって無駄だから。従って「知らずに好きになれるか？」と言われても答えられない。「特殊な環境が影響したんではないか」と聞かれても、何とも言えません。何故って? 僕が感情的で、あなたが理性的である以上、何とこじつけても詭弁にしか過ぎないから。
しかし僕は感情的であることを悔いはしません。僕は自分の「特殊な」感情を他人の恋愛論なぞを引っ張り出して分析するような冷静な人間であるよりも、むしろ感情的である方がいいと思う。「どうして好きになったか」と聞かれても同様の理由で答えることができない。好きになるということは相手に価値を見出さない以上、起こり得ないことでしょう。しかし洋ちゃんのことはあなた自身の方がずっとよく知ってるのだから、僕があなたの中に見出した価値はあなた自身が認める価値とは違うかもしれない。その価値観の相違（仮にあるとして）は、お互いの立場が違う以上あなたの了解を得られるとは思わない。
全てのことは同様にただ堂々巡りをするだけです。結論（僕だけの）はただ一つ「洋ちゃんを好きになった」という事実が現に存するということ。
次に言いたい事は、この事実はたんなる気まぐれで起こったのではないということ。理由を聞かれても答えられません。ただ、信じてもらうよりしようがないでしょう。木曜日帰って来てからこの手紙を書くまでまた考えてみました。考えて帰するところは結局同じこと、即ち「本当に好きになってしまった」ということだった。そしてこの気持ちは変わらないと信じています。理論的な何等の保障も与えられないことは残念ですが。
第三にはこういう気持ちを持つ以上、あなたとの交際は今後「好きな人」としてするつもりです。迷惑かもしれないけれど。勿論これはこちらだけのことで、木曜日に約束したようにあなたは僕をあなたの男の友達の一人として、普通に交際して欲しい。又そうしたからと言って、変な罪の意識なんか抱かぬよう、ごく普通に平常のままの気持ちで付き合ってもらえたら幸いです。
月井さんと相談してシカゴに行くにしても行かぬにしても、決まり次第「西山」さん宛てにハガキ位でなるべく早く知らせて上げて下さい。シカゴの人達は多分来るだろうと待ってるでしょうからなるべく行けたら行って欲しいと思う。
今日は午後フラタニティ対抗の陸上競技の試合、一哩走ったらブッタオレそうになった。夜は同じくヴァレーボールの試合。これ又我がフラタニティーは全然駄目。皆よく勉強する者ばかりで、駄目です。ただ一つあるトロフィーは僕とあと二人の友達が、玉突きで優勝してとったものと言う情けなさ。この間は水泳の対抗試合、その前はバスケットボールとタッチフットボール、バドミントン、ピンポン、ETC. 僕の様に不勉強家はせめてスポーツでフラタニティーのために尽くすより手がなさそうです。もうすぐソフトボールの対抗試合を始めますが、中学時代野球選手だったので昔取ったキネヅカと言う奴を発揮するつもり。
ともかく休みを面白く過ごして下さい。念のためにここの電話番号を教えます。GAMBIER 3691 South Hanna(Archon)
じゃ又、元気で。 崇 4月9日
P.S. シカゴの人達には洋ちゃんを僕の好きな人と紹介してしまったから、彼等はそういうつもりで応対してくれるかもしれない。あなたの承諾なしで済まないと思いますが、何しろシカゴに僕が行く前に、好きになったんだから悪く思わないで。「ただの友達として付き合っている」とはっきり言ってやってくれても結構です。
写真：上の写真最初の3点は渡米後初めて車を手に入れて喜んでいる様子。ケニヨンのキャンパスで。
4点目はシカゴで知り合った日本の留学生の友人と。この年の前年の夏、シカゴで。
5点目はデニソンの大学町グランヴィルの街角で。前月掲載した写真で洋子が立っていた場所と同じ。
この手紙は私がすぐノックスに出かけたので、月井さん気付けｃ/oで届いた。それで、念のため自分の電話番号を書いている。
